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#01

その背中は振り返らない。常にまっすぐ、前を見据えている。
傷つくことを厭わず、最前線で剣を振るうその姿の隣に立ちたいと思い始めたのは、一体いつ頃だったか。
最初は現実と痛みからの逃避だった。すぐに、憧れとなった。

いつしかそれは強い渇望となり、変わったことに気づいたときは、もう遅い。

どうしようもなく、手遅れだ。


#02

「いくぜ、相棒!」

クナイを握りしめながら横目でそいつの顔を見ると、見慣れた凶悪な微笑を浮かべている。
ああ、いつもどおりだ。ぞくりと背筋に言い様のない感覚が走る、好戦的な笑み。
敵と遭遇した時にしか、俺がこいつの顔を見ることはない。

「ああ、花村」

その声にすら、理性が狂わされる。


#03

好きだったことを忘れる必要なんてない。
でも、負った傷からずっと血を流し続ける続ける必要もない。
その痛みがいつか過去の思い出となるまで、俺はお前を見守っていよう。お前がひとりで立って、前を向いて歩けるようになるまでは、その手を握っているから。

「ばっかやろ……そういうの、女の子に……しろよなぁ……」

バカはお前だろ、陽介。
大切な相手を慈しむのに、性別なんて関係ないんだから。


#04

手を伸ばしかけて、戸惑う。指先が触れそうで触れない近さまで近づいたくせに、それ以上動けなくなった。
今までそんなこと気にもしなかったのに、自覚した途端にできなくなるなんて、ほんとバカだ。

「陽介?」

俺の方を見つめて不思議そうに瞬く砂色の瞳から、そっと視線を逸らす。

「ほっぺたにまつげ、ついてる」

本当は、その頬に触れたかった。